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charis
  カリス
    優美・好意・恵み・感謝

C・年間32


(1)優美、感じの良さ、魅力があること
(a)体形の「美しさ」
▼パウロ行伝 三13
(b)言葉の「快さ」
[名詞ロゴス〈言葉〉に属格形で]
▼ルカ四22 皆はイエスをほめ、その口から出る【恵み深い】言葉に驚いて言った。「この人はヨセフの子ではないか。」
  注― 属格形(性質を表す属格)
  直訳― 「快さを持った言葉」
[前置詞エン〈の中で、帯びた〉と共に]
▼コロ四6 いつも、塩で味付けされた【快い】言葉で語りなさい。そうすれば、一人一人にどう答えるべきかが分かるでしょう。
      直訳― 「快さを[帯びた言葉]」
(c)顔の「美しさ」
[名詞プロソーポン〈顔〉に属格形]
▼ポリュカルポスの殉教 一二1
  ただし、カリスを「美しさ」以上の意味に取るのであれば、下記(4)参照。
▼ヤコブ原福音書 七3
  (下記(3)(β)(c)参照)

(2)好意、寵愛、親切、好意からの配慮や世話
(α)能動的な意味で(ある人が他人に与えるものとして)。そうする義務があるわけではないが、進んでそれを行う人の行動を指す
(a)一般的に、「神の恵み」
[名詞セオス〈神〉の属格形を伴って]
▼ルカ二40 幼子はたくましく育ち、知恵に満ち、神の【恵み】に包まれていた。
▼使一四26 そこからアンティオキアへ向かって船出した。そこは、二人が今成し遂げた働きのために神の【恵み】にゆだねられて送り出された所である。
[名詞キューリオス〈主〉の属格形を伴って]
▼使一五40 一方、パウロはシラスを選び、兄弟たちから主の【恵み】にゆだねられて、出発した。
▼パピアスの断片 二9
(b)特に、人間に(過分な)賜物を与える、神やキリストの心に使われる
[神の]
▼ロマ三24 ただキリスト・イエスによる贖いの業を通して、神の【恵みにより】無償で義とされるのです。
  注― 与格形
▽ロマ五15a しかし、恵みの賜物は罪とは比較になりません。一人の罪によって多くの人が死ぬことになったとすれば、なおさら、神の【恵み】と一人の人イエス・キリストの【恵み】の賜物とは、多くの人に豊かに注がれるのです。
▽ロマ五20 律法が入り込んで来たのは、罪が増し加わるためでありました。しかし、罪が増したところには、【恵み】はなおいっそう満ちあふれました。
▽ロマ五21 こうして、罪が死によって支配していたように、【恵み】も義によって支配しつつ、わたしたちの主イエス・キリストを通して永遠の命に導くのです。
▽ロマ六1 では、どういうことになるのか。【恵み】が増すようにと、罪の中にとどまるべきだろうか。
▽ロマ一一5 同じように、現に今も、【恵みによって】選ばれた者が残っています。
  注― 属格形
▽ロマ一一6a・b・c もしそれが【恵みによる】とすれば、行いにはよりません。もしそうでなければ、【恵み】はもはや【恵み】ではなくなります。
  注― aは与格形
▽ガラ一15 しかし、わたしを母の胎内にあるときから選び分け、【恵み】によって召し出してくださった神が、御心のままに、
▽エフェ一6 神がその愛する御子によって与えてくださった輝かしい【恵み】を、わたしたちがたたえるためです。
▽エフェ一7 わたしたちはこの御子において、その血によって贖われ、罪を赦されました。これは、神の豊かな【恵み】によるものです。
▽エフェ二5 罪のために死んでいたわたしたちをキリストと共に生かし、――あなたがたの救われたのは【恵みによる】のです――
  注― 与格形
▽エフェ二7 こうして、神は、キリスト・イエスにおいてわたしたちにお示しになった慈しみにより、その限りなく豊かな【恵み】を、来るべき世に現そうとされたのです。
▽エフェ二8 事実、あなたがたは、【恵みにより】、信仰によって救われました。このことは、自らの力によるのではなく、神の賜物です。
  注― 与格形
▽ポリュカルポスの手紙 一3
▽2テサ一12 それは、わたしたちの神と主イエス・キリストの【恵み】によって、わたしたちの主イエスの名があなたがたの間であがめられ、あなたがたも主によって誉れを受けるようになるためです。
▽2テサ二16 わたしたちの主イエス・キリスト御自身、ならびに、わたしたちを愛して、永遠の慰めと確かな希望とを【恵み】によって与えてくださる、わたしたちの父である神が、
▽2テモ一9 神がわたしたちを救い、聖なる招きによって呼び出してくださったのは、わたしたちの行いによるのではなく、御自身の計画と【恵み】によるのです。この恵みは、永遠の昔にキリスト・イエスにおいてわたしたちのために与えられ、
  注― 使用一回。後者は補足
▽テト二11 実に、すべての人々に救いをもたらす神の【恵み】が現れました。
▽テト三7 こうしてわたしたちは、キリストの【恵み】によって義とされ、希望どおり永遠の命を受け継ぐ者とされたのです。
▽ヘブ二9 ただ、「天使たちよりも、わずかの間、低い者とされた」イエスが、死の苦しみのゆえに、「栄光と栄誉の冠を授けられた」のを見ています。神の【恵みによって】、すべての人のために死んでくださったのです。
  注― 与格形
▽ヘブ四16a だから、憐れみを受け、【恵み】にあずかって、時宜にかなった助けをいただくために、大胆に【恵み】の座に近づこうではありませんか。
  注― 訳文の後半部が原文では前半部になる
▽1クレメンス 五〇3
▽イグナティオスの手紙
       スミルナのキリスト者へ 九2
▽イグナティオスの手紙
       ポリュカルポスへ 七3
▼パウロ行伝 七23
  注― 「前置詞エン+与格形」で、「神の恵みによって」
▼ロマ四4 ところで、働く者に対する報酬は【恵み】ではなく、当然支払われるべきものと見なされています。
  注― 「前置詞カタ+名詞オフェイレーマ〈負い目から、当然支払われるべきものとして〉」と対比されて
▼ロマ四16 従って、信仰によってこそ世界を受け継ぐ者となるのです。【恵み】によって、アブラハムのすべての子孫、つまり、単に律法に頼る者だけでなく、彼の信仰に従う者も、確実に約束にあずかれるのです。彼はわたしたちすべての父です。
[キリストの恵み、好意]
▼使一五11 わたしたちは、主イエスの【恵み】によって救われると信じているのですが、これは、彼ら異邦人も同じことです。」
▽ロマ五15b しかし、恵みの賜物は罪とは比較になりません。一人の罪によって多くの人が死ぬことになったとすれば、なおさら、神の【恵み】と一人の人イエス・キリストの【恵み】の賜物とは、多くの人に豊かに注がれるのです。
▽2コリ八9 あなたがたは、わたしたちの主イエス・キリストの【恵み】を知っています。すなわち、主は豊かであったのに、あなたがたのために貧しくなられた。それは、主の貧しさによって、あなたがたが豊かになるためだったのです。
▽1テモ一14 そして、わたしたちの主の【恵み】が、キリスト・イエスによる信仰と愛と共に、あふれるほど与えられました。
▽イグナティオスの手紙
       フィラデルフィアのキリスト者へ 八1
(β)受動的な意味で(ある人が他人から受けるものとして)
(a)動詞エコー〈持つ〉と共に、「好意を受ける」(次の前置詞句によって、好意を示す人が表される)
[前置詞プロス〈のもとで〉+人物の対格]
▼使二47 神を賛美していたので、民衆全体から【好意】を寄せられた。こうして、主は救われる人々を日々仲間に加え一つにされたのである。
[前置詞パラ〈のもとで〉+人物の与格]
▼ヘルマスの牧者第十のいましめ 三1
▽ヘルマスの牧者第五のいましめ 一5
(b)動詞ヘウリスコー〈見つける・手に入れる〉と共に、「恵みを得る」(次の前置詞句によって、好意を持つ人が表される)
[前置詞パラ〈のもとで〉+人物の与格]
▼ルカ一30 すると、天使は言った。「マリア、恐れることはない。あなたは神から【恵み】をいただいた。
▼ヘルマスの牧者第五のたとえ 二10
[前置詞エノーピオン〈のもとで〉+人物の属格]
▼使七46 ダビデは神の【御心】に適い、ヤコブの家のために神の住まいが欲しいと願っていましたが、
▼ヤコブ原福音書 一一2
[前置詞エン+人物の与格]
▼ヘルマスの牧者第十二のいましめ 三3
(c)動詞プロコプトー〈前進する〉と共に
[前置詞パラ〈のもとで〉+人物の与格]
▼ルカ二52 イエスは知恵が増し、背丈も伸び、神と人とに【愛された】。
  直訳― 「[神と人のもとで]恵みにおいて[前進する]」
(d)以下の前置詞句を伴って
[前置詞エピ〈上に〉]
▽使四33 使徒たちは、大いなる力をもって主イエスの復活を証しし、皆、人々から非常に【好意】を持たれていた。
[前置詞エナンティオン〈面前で〉]
▽使七10 あらゆる苦難から助け出して、エジプト王ファラオのもとで【恵み】と知恵をお授けになりました。そしてファラオは、彼をエジプトと王の家全体とをつかさどる大臣に任命したのです。
[前置詞エイス〈ために〉]
▽ヘブ四16b だから、憐れみを受け、【恵み】にあずかって、時宜にかなった助けをいただくために、大胆に【恵み】の座に近づこうではありませんか。
  注― 訳文の前半部が原文では後半部になる
(e)疑問詞ポイオス〈どんな〉と共に、「どんな恵みがあるのか」
▼ルカ六32 自分を愛してくれる人を愛したところで、あなたがたにどんな【恵み】があろうか。罪人でも、愛してくれる人を愛している。
▼ルカ六33 また、自分によくしてくれる人に善いことをしたところで、どんな【恵み】があろうか。罪人でも同じことをしている。
▼ルカ六34 返してもらうことを当てにして貸したところで、どんな【恵み】があろうか。罪人さえ、同じものを返してもらおうとして、罪人に貸すのである。
▽ディダケー 一3
▽2クレメンス 一三4
  注― これらの箇所では「報酬」の意味に近い
(f)神の恵みを人にもたらすものを換喩的に表して
▼1ペト二19・20 不当な苦しみを受けることになっても、神がそうお望みだとわきまえて苦痛を耐えるなら、それは【御心に適うこと】なのです。▼罪を犯して打ちたたかれ、それを耐え忍んでも、何の誉れになるでしょう。しかし、善を行って苦しみを受け、それを耐え忍ぶなら、これこそ神の【御心に適うこと】です。
(γ)パウロ以降のキリスト教の書簡文学では、「(神の)恩寵、恵み」を意味するカリスが、手紙の冒頭と結びの定式句の中に見いだせる
(a)手紙の冒頭で、「あなたがたに恵みと平和」(動詞エイミ〈ある〉の希求法・三人称単数〈…があるように〉が補足されて)
▼ロマ一7 神に愛され、召されて聖なる者となったローマの人たち一同へ。わたしたちの父である神と主イエス・キリストからの【恵み】と平和が、あなたがたにあるように。
▼1コリ一3 わたしたちの父である神と主イエス・キリストからの【恵み】と平和が、あなたがたにあるように。
▼2コリ一2 わたしたちの父である神と主イエス・キリストからの【恵み】と平和が、あなたがたにあるように。
▼ガラ一3 わたしたちの父である神と、主イエス・キリストの【恵み】と平和が、あなたがたにあるように。
▼エフェ一2 わたしたちの父である神と主イエス・キリストからの【恵み】と平和が、あなたがたにあるように。
▼フィリ一2 わたしたちの父である神と主イエス・キリストからの【恵み】と平和が、あなたがたにあるように。
▼コロ一2 コロサイにいる聖なる者たち、キリストに結ばれている忠実な兄弟たちへ。わたしたちの父である神からの【恵み】と平和が、あなたがたにあるように。
▼1テサ一1 パウロ、シルワノ、テモテから、父である神と主イエス・キリストとに結ばれているテサロニケの教会へ。【恵み】と平和が、あなたがたにあるように。
▼2テサ一2 わたしたちの父である神と主イエス・キリストからの【恵み】と平和が、あなたがたにあるように。
▼フィレ3 わたしたちの父である神と主イエス・キリストからの【恵み】と平和が、あなたがたにあるように。
▼黙一4 ヨハネからアジア州にある七つの教会へ。今おられ、かつておられ、やがて来られる方から、また、玉座の前におられる七つの霊から、更に、証人、誠実な方、死者の中から最初に復活した方、地上の王たちの支配者、イエス・キリストから【恵み】と平和があなたがたにあるように。
[「あなたがたに」なしで]
▼テト一4 信仰を共にするまことの子テトスへ。父である神とわたしたちの救い主キリスト・イエスからの【恵み】と平和とがあるように。
[動詞プレーシューノー〈豊かにする〉の希求法受動態が加わって」
▼1ペト一2 あなたがたは、父である神があらかじめ立てられた御計画に基づいて、″霊″によって聖なる者とされ、イエス・キリストに従い、また、その血を注ぎかけていただくために選ばれたのです。【恵み】と平和が、あなたがたにますます豊かに与えられるように。
▼2ペト一2 神とわたしたちの主イエスを知ることによって、【恵み】と平和が、あなたがたにますます豊かに与えられるように。
▼1クレメンス 題辞
[恵みと憐れみと平和が]
▼1テモ一2 信仰によるまことの子テモテへ。父である神とわたしたちの主キリスト・イエスからの【恵み】、憐れみ、そして平和があるように。
▼2テモ一2 愛する子テモテへ。父である神とわたしたちの主キリスト・イエスからの【恵み】、憐れみ、そして平和があるように。
▼2ヨハ3 父である神と、その父の御子イエス・キリストからの【恵み】と憐れみと平和は、真理と愛のうちにわたしたちと共にあります。
(b)結びで、「(わたしたちの主イエス・キリストの)恵みがあなたがた(あなたがたすべて)と共に」
▼ロマ一六20 平和の源である神は間もなく、サタンをあなたがたの足の下で打ち砕かれるでしょう。わたしたちの主イエスの【恵み】が、あなたがたと共にあるように。
▼ロマ一六24 わたしたちの主イエス・キリストの【恵み】が、あなたがた一同と共にあるように。
▼1コリ一六23 主イエスの【恵み】が、あなたがたと共にあるように。
▼2コリ一三13 主イエス・キリストの【恵み】、神の愛、聖霊の交わりが、あなたがた一同と共にあるように。
▼ガラ六18 兄弟たち、わたしたちの主イエス・キリストの【恵み】が、あなたがたの霊と共にあるように、アーメン。
▼エフェ六24 【恵み】が、変わらぬ愛をもってわたしたちの主イエス・キリストを愛する、すべての人と共にあるように。
▼フィリ四23 主イエス・キリストの【恵み】が、あなたがたの霊と共にあるように。
▼コロ四18 わたしパウロが、自分の手で挨拶を記します。わたしが捕らわれの身であることを、心に留めてください。【恵み】があなたがたと共にあるように。
▼1テサ五28 わたしたちの主イエス・キリストの【恵み】が、あなたがたと共にあるように。
▼2テサ三18 わたしたちの主イエス・キリストの【恵み】が、あなたがた一同と共にあるように。
▼1テモ六21 その知識を鼻にかけ、信仰の道を踏み外してしまった者もいます。【恵み】があなたがたと共にあるように。
▼2テモ四22 主があなたの霊と共にいてくださるように。【恵み】があなたがたと共にあるように。
▼テト三15 わたしと一緒にいる者たちが皆、あなたによろしくと言っています。わたしたちを愛している信仰の友人たちによろしく伝えてください。【恵み】があなたがた一同と共にあるように。
▼フィレ25 主イエス・キリストの【恵み】が、あなたがたの霊と共にあるように。
▼ヘブ一三25 【恵み】があなたがた一同と共にあるように。
▼黙二二21 主イエスの【恵み】が、すべての者と共にあるように。
▼1クレメンス 六五2
▽ヤコブ原福音書 二五2
▽バルナバの手紙 二一9
▽イグナティオスの手紙
       スミルナのキリスト者へ 一二2
▽イグナティオスの手紙
       スミルナのキリスト者へ 一三2

(3)好意を行動で表すこと、「好意のしるし、恵みからの行い、贈り物、施し物」
(α)人間について使われる
(a)動詞カタティセーミの中動態〈自分のために蓄える〉や動詞アイテオー〈求める〉の中動態と共に、「機嫌をとる」
[動詞カタティセーミと共に]
▼使二四27 さて、二年たって、フェリクスの後任者としてポルキウス・フェストゥスが赴任したが、フェリクスは、ユダヤ人に【気に入られ】ようとして、パウロを監禁したままにしておいた。
▼使二五9 しかし、フェストゥスはユダヤ人に【気に入られ】ようとして、パウロに言った。「お前は、エルサレムに上って、そこでこれらのことについて、わたしの前で裁判を受けたいと思うか。」
[動詞アイテオーと共に]
▼使二五3 祭司長たちやユダヤ人のおもだった人々は、パウロを訴え出て、彼をエルサレムへ送り返すよう【計らって】いただきたいと、フェストゥスに頼んだ。途中で殺そうと陰謀をたくらんでいたのである。
  注― これらの使徒言行録の箇所では、「他人のために行う親切な行為」の意味に近い
(b)「好意の証拠となるもの」
▼2コリ一15 このような確信に支えられて、わたしは、あなたがたがもう一度【恵み】を受けるようにと、まずあなたがたのところへ行く計画を立てました。
  直訳― 「[二度目の]好意の証拠となるもの[をあなたがたが持つようにと]」
(c)エルサレム教会への献金を指して
▼1コリ一六3 そちらに着いたら、あなたがたから承認された人たちに手紙を持たせて、その【贈り物】を届けにエルサレムに行かせましょう。
▼2コリ八4 聖なる者たちを助けるための【慈善の業】と奉仕に参加させてほしいと、しきりにわたしたちに願い出たのでした。
▼2コリ八6 わたしたちはテトスに、この【慈善の業】をあなたがたの間で始めたからには、やり遂げるようにと勧めました。
▼2コリ八7 あなたがたは信仰、言葉、知識、あらゆる熱心、わたしたちから受ける愛など、すべての点で豊かなのですから、この【慈善の業】においても豊かな者となりなさい。
▼2コリ八19 そればかりではありません。彼はわたしたちの同伴者として諸教会から任命されたのです。それは、主御自身の栄光と自分たちの熱意を現すようにわたしたちが奉仕している、この【慈善の業】に加わるためでした。
▽バルナバの手紙 二一7
(d)エフェ四29の用例
▼エフェ四29 悪い言葉を一切口にしてはなりません。ただ、聞く人に【恵み】が与えられるように、その人を造り上げるのに役立つ言葉を、必要に応じて語りなさい。
  注― 人が行う恵みが考えられているというより、神の恵みが伝えられる手段が考えられている(下記(β)参照)
(β)神やキリストについて使われる(文脈によって強調点が異なる。つまり、信じる者への祝福の源泉となる「神的な恵みの所有」、あるいは、授けられる「恵みの賜物」か、あるいは、神によって引き起こされた「恵みの状態」、あるいは、神がキリストにおいて成し遂げた「恵みの業」、あるいは、常に大きなものへと成長していく「恵みの働き」に置かれる)
(a)神は「あらゆる恵みの神」と呼ばれる
▼1ペト五10 しかし、あらゆる【恵みの源である】神、すなわち、キリスト・イエスを通してあなたがたを永遠の栄光へ招いてくださった神御自身が、しばらくの間苦しんだあなたがたを完全な者とし、強め、力づけ、揺らぐことがないようにしてくださいます。
  注― 属格形
(b)動詞ディドーミ〈与える〉と共に、「恵みを与える」(次のような与格形で与える相手が示される)
[彼に]
▼ヤコブ原福音書 一四2
[謙遜な者に]
▼ヤコ四6b もっと豊かな【恵み】をくださる。」それで、こう書かれています。「神は、高慢な者を敵とし、謙遜な者には【恵み】をお与えになる。」
▼1ペト五5 同じように、若い人たち、長老に従いなさい。皆互いに謙遜を身に着けなさい。なぜなら、「神は、高慢な者を敵とし、謙遜な者には【恵み】をお与えになる」からです。
▼1クレメンス 三〇2
[与格なしで]
▼ヤコ四6a もっと豊かな【恵み】をくださる。」それで、こう書かれています。「神は、高慢な者を敵とし、謙遜な者には【恵み】をお与えになる。」
(c)動詞バッロー〈投げる〉と共に
▼ヤコブ原福音書 七3
  注― 「美しさ」の意味も可能。上記(1)(c)参照
(d)ロゴス(ことば)に使われて
▼ヨハ一14 言は肉となって、わたしたちの間に宿られた。わたしたちはその栄光を見た。それは父の独り子としての栄光であって、【恵み】と真理とに満ちていた。
▼ヨハ一16 わたしたちは皆、この方の満ちあふれる豊かさの中から、【恵み】の上に、更に【恵み】を受けた。
▽ヨハ一17 律法はモーセを通して与えられたが、【恵み】と真理はイエス・キリストを通して現れたからである。
(e)「恵みの状態」
▼ロマ五2 このキリストのお陰で、今の【恵み】に信仰によって導き入れられ、神の栄光にあずかる希望を誇りにしています。
▼ロマ五17 一人の罪によって、その一人を通して死が支配するようになったとすれば、なおさら、【神の恵み】と義の賜物とを豊かに受けている人は、一人のイエス・キリストを通して生き、支配するようになるのです。
▼1コリ一4 わたしは、あなたがたがキリスト・イエスによって神の【恵み】を受けたことについて、いつもわたしの神に感謝しています。
▼2コリ四15 すべてこれらのことは、あなたがたのためであり、多くの人々が豊かに【恵み】を受け、感謝の念に満ちて神に栄光を帰すようになるためです。
  (回心をもたらす恵みの働き)
▽使一一23 バルナバはそこに到着すると、神の【恵みが与えられた有様】を見て喜び、そして、固い決意をもって主から離れることのないようにと、皆に勧めた。
▼2コリ六1 わたしたちはまた、神の協力者としてあなたがたに勧めます。神からいただいた【恵み】を無駄にしてはいけません。
▼ガラ一6 キリストの【恵み】へ招いてくださった方から、あなたがたがこんなにも早く離れて、ほかの福音に乗り換えようとしていることに、わたしはあきれ果てています。
▼ガラ二21 わたしは、神の【恵み】を無にはしません。もし、人が律法のお陰で義とされるとすれば、それこそ、キリストの死は無意味になってしまいます。
▼ガラ五4 律法によって義とされようとするなら、あなたがたはだれであろうと、キリストとは縁もゆかりもない者とされ、いただいた【恵み】も失います。
▼コロ一6 あなたがたにまで伝えられたこの福音は、世界中至るところでそうであるように、あなたがたのところでも、神の【恵み】を聞いて真に悟った日から、実を結んで成長しています。
▼2テモ二1 そこでわたしの子よ、あなたはキリスト・イエスにおける【恵み】によって強くなりなさい。
▼ヘブ一二15 神の【恵み】から除かれることのないように、また、苦い根が現れてあなたがたを悩まし、それによって多くの人が汚れることのないように、気をつけなさい。
▼ヘブ一三9 いろいろ異なった教えに迷わされてはなりません。食べ物ではなく、【恵みによって】心が強められるのはよいことです。食物の規定に従って生活した者は、益を受けませんでした。注|与格形
▼1ペト一10 この救いについては、あなたがたに与えられる【恵み】のことをあらかじめ語った預言者たちも、探求し、注意深く調べました。
▼1ペト一13 だから、いつでも心を引き締め、身を慎んで、イエス・キリストが現れるときに与えられる【恵み】を、ひたすら待ち望みなさい。
▼1ペト三7 同じように、夫たちよ、妻を自分よりも弱いものだとわきまえて生活を共にし、命の【恵み】を共に受け継ぐ者として尊敬しなさい。そうすれば、あなたがたの祈りが妨げられることはありません。
▼1ペト五12 わたしは、忠実な兄弟と認めているシルワノによって、あなたがたにこのように短く手紙を書き、勧告をし、これこそ神のまことの【恵み】であることを証ししました。この恵みにしっかり踏みとどまりなさい。
  注― 使用一回。後者は補足
▼2ペト三18 わたしたちの主、救い主イエス・キリストの【恵み】と知識において、成長しなさい。このイエス・キリストに、今も、また永遠に栄光がありますように、アーメン。
▼ユダ4 なぜなら、ある者たち、つまり、次のような裁きを受けると昔から書かれている不信心な者たちが、ひそかに紛れ込んで来て、わたしたちの神の【恵み】をみだらな楽しみに変え、また、唯一の支配者であり、わたしたちの主であるイエス・キリストを否定しているからです。
▼イグナティオスの手紙
      フィラデルフィアのキリスト者へ 一一1
▼イグナティオスの手紙
      スミルナのキリスト者へ 六2
(f)救いの業にはっきりと示された神の「恵みの意志の下に」キリスト者はいる
▼ロマ六14 なぜなら、罪は、もはや、あなたがたを支配することはないからです。あなたがたは律法の下ではなく、【恵み】の下にいるのです。
▼ロマ六15 では、どうなのか。わたしたちは、律法の下ではなく【恵み】の下にいるのだから、罪を犯してよいということでしょうか。決してそうではない。
[あるいは、彼の「恵みの」くびきの下に入る]
▼1クレメンス 一六17
(g)救いの知らせは神の「恵みの」福音
▼使二〇24 しかし、自分の決められた道を走りとおし、また、主イエスからいただいた、神の【恵み】の福音を力強く証しするという任務を果たすことができさえすれば、この命すら決して惜しいとは思いません。
▼使一四3 それでも、二人はそこに長くとどまり、主を頼みとして勇敢に語った。主は彼らの手を通してしるしと不思議な業を行い、その【恵み】の言葉を証しされたのである。
▼使二〇32 そして今、神とその【恵み】の言葉とにあなたがたをゆだねます。この言葉は、あなたがたを造り上げ、聖なる者とされたすべての人々と共に恵みを受け継がせることができるのです。
  注― 使用一回。後者は補足
(h)福音そのものがその内容から神の「恵み」と呼ばれることもある
▼使一三43 集会が終わってからも、多くのユダヤ人と神をあがめる改宗者とがついて来たので、二人は彼らと語り合い、神の【恵み】の下に生き続けるように勧めた。
▽使一八27 それから、アポロがアカイア州に渡ることを望んでいたので、兄弟たちはアポロを励まし、かの地の弟子たちに彼を歓迎してくれるようにと手紙を書いた。アポロはそこへ着くと、既に【恵み】によって信じていた人々を大いに助けた。
▽ポリュカルポスの殉教 二3
(i)霊に使われ、「恵みの霊」(神の恵みはこの霊によって注がれる)
▼ヘブ十29 まして、神の子を足げにし、自分が聖なる者とされた契約の血を汚れたものと見なし、その上、【恵み】の霊を侮辱する者は、どれほど重い刑罰に値すると思いますか。
(j)複数形で、「恵みの賜物、恩寵のしるし」
▼1クレメンス 二三1

(4)キリスト者の状態そのものによって引き出されるのではない、神の恵みの特別な働き
(a)次の教会に見られた
[マケドニアの教会]
▼2コリ八1 兄弟たち、マケドニア州の諸教会に与えられた神の【恵み】について知らせましょう。
[コリントの教会]
▼2コリ九14 更に、彼らはあなたがたに与えられた神のこの上なくすばらしい【恵み】を見て、あなたがたを慕い、あなたがたのために祈るのです。
▽2コリ九8 神は、あなたがたがいつもすべての点ですべてのものに十分で、あらゆる善い業に満ちあふれるように、あらゆる【恵み】をあなたがたに満ちあふれさせることがおできになります。
[ローマの教会]
▼パウロ行伝 七8
(b)殉教者は、完全に神の恵みに包まれている
▼イグナティオスの手紙
       スミルナのキリスト者へ 一一1
(c)パウロは「恵み」を通して使徒に召され、「恵み」と共に使徒職に必要な力や能力が与えられたことを知っている
▼ロマ一5 わたしたちはこの方により、その御名を広めてすべての異邦人を信仰による従順へと導くために、【恵み】を受けて使徒とされました。
▼ロマ一二3 わたしに与えられた【恵み】によって、あなたがた一人一人に言います。自分を過大に評価してはなりません。むしろ、神が各自に分け与えてくださった信仰の度合いに応じて慎み深く評価すべきです。
▼ロマ一五15 記憶を新たにしてもらおうと、この手紙ではところどころかなり思い切って書きました。それは、わたしが神から【恵み】をいただいて、
▼1コリ三10 わたしは、神からいただいた【恵み】によって、熟練した建築家のように土台を据えました。そして、他の人がその上に家を建てています。ただ、おのおの、どのように建てるかに注意すべきです。
▼1コリ一五10a・b 神の【恵みによって】今日のわたしがあるのです。そして、わたしに与えられた神の【恵み】は無駄にならず、わたしは他のすべての使徒よりずっと多く働きました。しかし、働いたのは、実はわたしではなく、わたしと共にある神の【恵み】なのです。
      注― aは与格形
▼2コリ一二9 すると主は、「わたしの【恵み】はあなたに十分である。力は弱さの中でこそ十分に発揮されるのだ」と言われました。だから、キリストの力がわたしの内に宿るように、むしろ大いに喜んで自分の弱さを誇りましょう。
▼ガラ二9 また、彼らはわたしに与えられた【恵み】を認め、ヤコブとケファとヨハネ、つまり柱と目されるおもだった人たちは、わたしとバルナバに一致のしるしとして右手を差し出しました。それで、わたしたちは異邦人へ、彼らは割礼を受けた人々のところに行くことになったのです。
▼エフェ三2 あなたがたのために神がわたしに【恵み】をお与えになった次第について、あなたがたは聞いたにちがいありません。
▼エフェ三7 神は、その力を働かせてわたしに【恵み】を賜り、この福音に仕える者としてくださいました。
▼エフェ三8 この【恵み】は、聖なる者たちすべての中で最もつまらない者であるわたしに与えられました。わたしは、この恵みにより、キリストの計り知れない富について、異邦人に福音を告げ知らせており、
  8節の注― 使用一回。後者は補足
▼フィリ一7 わたしがあなたがた一同についてこのように考えるのは、当然です。というのは、監禁されているときも、福音を弁明し立証するときも、あなたがた一同のことを、共に【恵み】にあずかる者と思って、心に留めているからです。
(d)神の「恵み」はさまざまなカリスマ〈恵みの賜物〉のうちに姿を現す
▼ロマ一二6 わたしたちは、与えられた【恵み】によって、それぞれ異なった賜物を持っていますから、預言の賜物を受けていれば、信仰に応じて預言し、
▼エフェ四7 しかし、わたしたち一人一人に、キリストの賜物のはかりに従って、【恵み】が与えられています。
▼1ペト四10 あなたがたはそれぞれ、賜物を授かっているのですから、神のさまざまな【恵み】の善い管理者として、その賜物を生かして互いに仕えなさい。
(e)それで多くの箇所では、「恵み」は非常に具体的に理解されている(それを「(神の)力」や、「知識」、「栄光」から区別することは難しい)
▼2コリ一12 わたしたちは世の中で、とりわけあなたがたに対して、人間の知恵によってではなく、神から受けた純真と誠実によって、神の【恵み】の下に行動してきました。このことは、良心も証しするところで、わたしたちの誇りです。
▼1コリ一五10c 神の【恵みによって】今日のわたしがあるのです。そして、わたしに与えられた神の【恵み】は無駄にならず、わたしは他のすべての使徒よりずっと多く働きました。しかし、働いたのは、実はわたしではなく、わたしと共にある神の【恵み】なのです。
▼2ペト三18 わたしたちの主、救い主イエス・キリストの【恵み】と知識において、成長しなさい。このイエス・キリストに、今も、また永遠に栄光がありますように、アーメン。((3)(β)(e)を参照)
▽1クレメンス 五五3
▽バルナバの手紙 一2
(f)ステファノは「恵み」と力に満たされている
▼使六8 さて、ステファノは【恵み】と力に満ち、すばらしい不思議な業としるしを民衆の間で行っていた。
[殉教者の顔を輝きで満たす]
▼ポリュカルポスの殉教 一二1
  上記(1)(c)参照
(g)来るべき世界の要素として、「この世(コスモス)」に対置される
▼ディダケー 十6

(5)感謝
(a)動詞エコー〈持つ〉と共に、「感謝している」
▼ルカ一七9 命じられたことを果たしたからといって、主人は僕に【感謝】するだろうか。
[大抵は、神やキリストに対する感謝]
▼2テモ一3 わたしは、昼も夜も祈りの中で絶えずあなたを思い起こし、先祖に倣い清い良心をもって仕えている神に、【感謝】しています。
▼1テモ一12 わたしを強くしてくださった、わたしたちの主キリスト・イエスに【感謝】しています。この方が、わたしを忠実な者と見なして務めに就かせてくださったからです。
▼ヘブ一二28 このように、わたしたちは揺り動かされることのない御国を受けているのですから、【感謝】しよう。感謝の念をもって、畏れ敬いながら、神に喜ばれるように仕えていこう。
      注― 使用一回。「感謝の念」は関係代名詞。感謝の理由が、先行する動詞パラランバノー〈受け取る〉の分詞形によって示されている
(b)動詞が省略されて、「神に感謝(あれ)」
▼ロマ七25 わたしたちの主イエス・キリストを通して神に【感謝】いたします。このように、わたし自身は心では神の律法に仕えていますが、肉では罪の法則に仕えているのです。
▼ポリュカルポスの殉教 三1
[接続詞ホティ節が続いて]
▼ロマ六17 しかし、神に【感謝】します。あなたがたは、かつては罪の奴隷でしたが、今は伝えられた教えの規範を受け入れ、それに心から従うようになり、
[前置詞エピ+与格形を伴って、「何かを」]
▼2コリ九15 言葉では言い尽くせない贈り物について神に【感謝】します。
[感謝の理由が、名詞セオス〈神〉の与格に付加された動詞の分詞形によって示される]
▼2コリ二14 神に【感謝】します。神は、わたしたちをいつもキリストの勝利の行進に連ならせ、わたしたちを通じて至るところに、キリストを知るという知識の香りを漂わせてくださいます。
▼2コリ八16 あなたがたに対してわたしたちが抱いているのと同じ熱心を、テトスの心にも抱かせてくださった神に【感謝】します。
▼1コリ一五57 わたしたちの主イエス・キリストによってわたしたちに勝利を賜る神に、【感謝】しよう。
(c)与格形で、「感謝をもって」
▼1コリ十30 わたしが【感謝して】食べているのに、そのわたしが感謝しているものについて、なぜ悪口を言われるわけがあるのです。
[前置詞エン+与格形で]
▼コロ三16 キリストの言葉があなたがたの内に豊かに宿るようにしなさい。知恵を尽くして互いに教え、諭し合い、詩編と賛歌と霊的な歌により、【感謝】して心から神をほめたたえなさい。
▼パウロ行伝 八7